学問のすすめ

ふと感心したので引用.

学問するには分限を知る事肝要なり。人の天然生れ附は,繋がれず縛られず,一人前の男は男,一人前の女は女にて,自由自在なる者なれども,唯自由自在とのみ唱えて分限を知らざれば,我儘放蕩に陥ること多し。即ちその分限とは,天の道理に基き,人の情に従い,他人の妨を為さずして我一身の自由を達することなり。自由と我儘との界は,他人の妨を為すと為さゞるとの間にあり。譬えば自分の金銀を費して為すことなれば,仮令い酒色に耽り放蕩を尽すも,自由自在なるべきに似たれども,決して然らず,一人の放盪は諸人の手本となり,遂に世間の風俗を乱りて人の教に妨を為すがゆえに,その費す所の金銀はその人のものたりとも,その罪許すべからず。

「人に迷惑をかけなければ何をしても良い」…というが,その「迷惑をかけなければ」を突き詰めると案外これが自明ではない.